Bishop方面の標識が見えてきたのでフリーウェイを降りて国道395方面へ。ちょこちょこ寄り道しながら北へ向かう。そして砂漠の中のオアシス、クラマージャンクションで左折し、10分ほど走って、ボロンの町に入る。
よく見ると造りが雑だ。けどそれがいいんだろな。/ The Barrel, Boron, California.
とりあえず町を一周してみる。小規模のスーパーに、カフェがいくつか、あとは教会とモーテル。どこにでもある普通の町だ。ランチタイムにはちょっと早いが、とりあえず腹ごしらえをする。目抜き通りにある、樽の形の、その名も『ザ・バレル』というバーガーショップの前に車を停める。一番シンプルなハンバーガーにポテトとコーラも付ける。アメリカのハンバーガーはどこで食べても感動的においしい。
20 Mule Team Museum, Boron, California.
『ザ・バレル』から車を10秒ほど走らせて、1800年代後半、鉱山で採掘したホウ砂を工場まで牽引した、勇敢な20頭のラバ隊の名前を冠した『トウェンティ・ミュール・チーム・ミュージアム』へ向かう。小さいけれど、鉱山とボロンの歴史が詰め込まれた、とても素敵なミュージアムだった。
そしてそこの一画に、ジョージの記念の品が飾られていた。
「進入禁止」の下に「ジョージを除く」と書き加えられている。
はじめまして、ジョージ。
数枚の写真、新聞の切り抜き、イカした柄のネクタイ、そして履き古されたブーツ。
都会だったら、ただの変わり者でその人生を終えていたかもしれない。
けど彼はボロンでの仕事を選び、そこで気ままに生きて、町の人に愛された。
なんて素晴らしい人生だろう。
バーバラ館長。素敵な女性だった。/ Twenty Mule Museum, Boron, California.
ミュージアムでトートバッグと、ラバのイラストが描かれたTシャツを買った。受付の女性(館長だった)に計算をしてもらいながら、少し話を聞いた。
「こんにちは。素敵なミュージアムですね」
「ありがとう。旅行?」
「はい、日本から」
「あらそう。それはいいわね。ようこそボロンへ」
「ところで、ジョージのお墓を探しているんですが」
「あぁ、ジョージの。どこだったかしら。そこにカフェがあるでしょ、そこで聞いてみるといいわ」
「ありがとう」
由緒正しきファミリーレストランという趣がある。/ K&L Corral, Boron, California.
カフェに入り、なんとも言えない色のビニールの椅子に腰掛けると、ウェイターの女性が注文を取りにきたので、コーヒーをお願いする。薄い色のコーヒーが、ポットから大きいマグカップに注がれ、カウンターに置かれる。
「ジョージのお墓を探しているんですが」
「ジョージ?」
「ウォーキングジョージの。ご存知ありませんか」
「あぁ、ジョージね。ちょっと待ってて」
そう言うと、奥に座っていた女性を紹介してくれた。
メアリー。このカフェのオーナーだった。
メアリーとマリア。/ K&L Corral, Boron, California.
「どこから来たの?」「日本?」「ジョージのお墓を探しに?」「えっ?ジョージの?本当に?」「日本から?わざわざ?本当に?」
まず話しかけてくれたのはメアリーの友達のマリアだった。
僕にいろいろ質問を浴びせかけた後、スマートフォンを駆使してジョージの情報を探し始めた。
「データベースにアクセスしたけど、unknown、って書いてあるわ。メアリー、あなた知ってる?」
「どこかしらねぇ。モハーヴェのほうかしら。詳しい場所はわからないわ」
メアリーによると、ジョージはこの店の常連だったらしい。
「彼はね、この店に来ると、砂漠で摘んだ雑草やお花を、スパイスのようにして、料理に振りかけて食べていたの」
「愉快でしょ。そして彼は決して料理を残さなかったわ」
そんな話をしている最中にも、ウェイターの女性や、他のテーブルのお客が、いろんな知り合いに電話をかけてくれて、いきなり現れた旅行者の唐突な質問に、精一杯応えてくれようとしていた。
「旅行で大阪に行ったことがある。みんな信じられないほど親切だった」/ K&L Corral, Boron, California.
気がつくと結構な時間が経っていた。結論はこうだった。ジョージのお墓は多分ボロンには無い。ここから西にあるもう少し大きな町、モハーヴェに行けば何かわかるかもしれない。けどそれも確実ではない。
モハーヴェまで車で1時間。もちろんそんなに遠くはないけれど、僕は、他の町か、ボロンには無いんだな、そうか、それじゃ仕方ないな、という気分になっていた。
一生懸命探してくれた皆と握手をして、礼を言い、店のドアを開けて、車に乗り込んだ。そしてもう一度町を一周し、ボロンを後にした。
ボロンの目抜き通り。/ Boron, California.
その日の日記に、こう書いてある。
「とても親切にしてもらった。感動したまま帰路へつく。これが大事な気がする」
そして今でもそう思っている。
パームスプリングスの夕焼けは美しい。/ Palm Springs, California.
モーテルの駐車場に車を留めて、高度にコツの要る錠前を開けて(トム曰く「暑さで鉄が溶けちまう」らしい)敷地に入り、部屋に戻る。
少し休んだ後、近所のメキシコ料理屋に行き、適当に晩御飯をすませて、プールで少しだけ泳いで、味の薄い缶ビールを飲み、またベッドに潜り込んだ。旅先とは思えない、心地よい眠りだった。
トム。/ Alpine Motel, Palm Springs, California.
翌朝、早い時間に起きて、固いパンを薄いコーヒーで流し込み、部屋を片付けて、荷造りをし、モーテルの看板猫に挨拶をしていると、事務所からトムが出てきた。
「おはよう。昨日はどうだった?」
「おはよう。うん、最高だったよ」
「そうか、暑かっただろ?」
「うん、暑かった。水をありがとう」
「ああ。モハーヴェのほうはとにかく暑いからな」
滞在中何かと気にかけてくれたトムと握手をして、トランクに荷物を積み込んで、太陽に焼けたシートに座り、キーを回した。
それからGoogleマップに目的地をセットして、ギアをバックに入れた。
カリフォルニアは相変わらずいい天気だった。